名古屋高等裁判所金沢支部 昭和25年(う)512号 判決
凡そ或る地方裁判所とその支部及支部相互の間に於ける事務の分配は司法行政事務に属し訴訟法上の管轄の問題とは異なる。従つて富山地方裁判所出町支部に起訴せられた本件につき原審裁判所がその説示のように公文書偽造、同行使の事実が公訴の範囲に包含せられ本件詐欺の訴因と共に右公文書偽造、同行使の事実についても同時に審判すべきものと解したとしても地方裁判所支部である原審裁判所が之につき管轄違の言渡しを為したことは失当であつて原判決は此の点に於て破棄を免れない。
次に公訴提起の効力は起訴状に記載された公訴事実の全部に及ぶものであるから起訴状に明示された訴因がその一部であつても或は又公訴事実中の牽連犯等処断上一罪の一部のみを訴因とした場合に於ても起訴状に掲げられた事実の全部が対象となるものと解すべく、従つて検察官は公訴の同一性を害しない限度に於て訴因、罰条の追加又は変更を請求し得るのであり裁判所も亦訴因、罰条の追加又は変更を命ずることができるのである。而して起訴状に掲げられた事実中訴因として明示せられたものが牽連犯等処断上一罪の一部であつてその他の事実につき訴因として之を明示せずその明示なき部分について検察官よりその審判を求めない旨の釈明があつた場合に於てはその検察官が訴追せざる旨を明かにした部分を審判の対象より除外し得べきことは一般的に考えられる。そこで本件事案について之を観るに本件詐欺行為につき偽造徴税令書の交付行為を除外して欺罔行為が成立し得るならば本件は訴因として疑いなく明示された単純な詐欺罪を審判の対象とする事案として一人の裁判官で審判することができるのであるけれども本件の詐欺行為には偽造徴税令書の交付行為が必然的に随伴しそれが本件欺罔行為の内容、実体を成すものであるならば裁判所は検察官に対し尠なくとも偽造公文書行使罪に対する訴因、罰条の追加を命じ且つ検察官が之に従うべきものであることは条理上当然の措置と考えるのが相当である。
そのように本件につき偽造公文書行使罪の訴因、罰条の追加が履践せらるゝに於ては本件は合議体の裁判所で審判せらるべきものであることは裁判所法に明示せられるところであるから叙上説明の点に鑑み本件は所謂甲号支部である富山地方裁判所高岡支部へ差戻すを相当と認め刑事訴訟法第四百条に則り主文の通り判決する。